人類の星の時間
"時間を超えて続く決定が、或る一定の日附の中に、或るひとときの中に、しばしばただ一分間の中に圧縮されるそんな劇的な緊密の時間、運命を孕むそんな時間は、個人の一生の中でも歴史の経路の中でも稀にしかない。こんな星の時間ー私がそう名づけるのは、そんな時間は星のように光を放ってそして不易に、無常変転の闇の上に照るからであるがーこんな星の時間のいくつかを、私はここに、たがいにきわめて相違している時代と様相との中から挙げてみることをこころみた。"
~本書序文より~
前に誰かの本を読んだときに本の中でオススメの本として紹介されていた一冊。
世界の重大事件が起こった瞬間を描いた歴史小説。
NHKで昔やっていた歴史番組、『その時歴史が動いた』がわかる人は、それの世界史版をイメージしてくれればわかりやすいと思う。
タイトルの「星の時間」というのは、著者のツヴァイクの言葉であるが、彼がこの言葉を説明したのが冒頭の一節である。
本書に出てくる「星の時間」は次の12個。
1、ヌニェス・デ・バルボアによる太平洋の発見
3、ヘンデルの復活
4、ラ・マルセイエーズ(フランス国歌)の作曲
5、ワーテルローの闘いでのナポレオンの敗戦
6、ゲーテのマリーエンバートの悲歌
7、黄金郷の発見(ゴールドラッシュ)
8、ドストエフスキーの壮烈な瞬間
9、大西洋横断電信ケーブルの開発
10、トルストイの未完の戯曲へのエピローグ
11、南極探検、アムンゼンとスコットの戦い
12、レーニンのロシアへの帰還
世界史を学んでいる方で歴史好きな方は決定的瞬間に至るまでをワクワクしながら読めると思う。前述の『その時歴史が動いた』の文字版の元ネタになっているんじゃないか(あれは日本史限定だったが)と思える内容だ。
というか、そもそも本書は世界史を学んでいる人しか読者として対象にしていない節がある。
というのも、一つ一つの星の時間についてその時間についての説明がない上に、登場人物についての説明もない。例えば、ワーテルローの戦いがどういう経緯で起こったかはさらっとだけ書いてあるものの、それが歴史にどういう影響を与えたのかについては書かれていないし、ナポレオン等の話の主要人物についての説明はいっさいないのだ。
つまり、読者はワーテルローの戦いは知ってるし、ナポレオンがどういう人物でどういう生涯をたどったかをだいたい知っていることが前提で本書を読む、ということが想定されている。
そんなわけで、世界史?なにそれ?って人が世界史を学ぼうと思って本書を読むのはオススメできない。
世界史を知っている方とそうでない方で評価の分かれる一冊だろうな、という印象を受けた。
★こんな人に読んで欲しい
・世界史好きな人
上述の通り、本書は読者を選ぶ。しかも取り上げる歴史的事実も戦争から文化まで多岐にわたるので、全部をフォローしきれない人もいるだろう。
でも一通り高校の世界史を受けている方ならほとんどは読めるものなので、世界史好きの方は是非読んでみて欲しい。