ノバク・ジョコビッチ伝
突然だが、皆さんは「セルビア」と聞いて何を想像するだろうか。
歴史の授業のおぼろげな記憶から、第一次世界大戦の勃発に関係していた国、ということを思い出す人がいるかもしれない。また、90年代にニュースを見ていた人は、「大虐殺」という語と共にセルビアのニュースを聞いたことがある人もいるだろう。
だが、大多数の人はセルビアと聞いてもあまりピンと来ないだろう。
では、セルビアの有名人、という質問に変えたらどうだろうか。
おそらく、テニスファンでなくともノバク・ジョコビッチの名を上げる人は多いのではないかと思う。
男子テニスの世界ランキング1位、ウェアは日本のユニクロと契約、日本テニス界のスター・錦織を度々苦しめる選手、と日本人にはなじみの深いセルビア人だと思う。
本書は、そんなジョコビッチと彼の故郷のセルビアについて書かれた一冊だ。
日本で出版されているジョコビッチ関連書籍としては、本人が書いた『ジョコビッチの生まれ変わる食事』に続いて二冊目である。
著者のクリス・バウアースさんは当初ジョコビッチの伝記を書きたかったらしいのだが、ジョコビッチサイドから「伝記は引退した後に自伝書きたいからダメ」といわれてしまったらしい。
本書の記述はジョコビッチサイドから書いたもの、というよりも、ジョコビッチとその周囲を客観的にみた上でなされていて、一部ジョコビッチに対して批判的な態度をとっている部分もある。
そのため、客観的に見たジョコビッチ、というものをよく知ることができる作りになっている。
ジョコビッチの生い立ちについての内容は、『ジョコビッチの生まれ変わる食事』と被る部分も多く、同書を読んでいる方は「あ、その話よんだことある」と思う部分もあるだろう。
そういう部分についても、何人もの関係者のインタビューを経て書かれているため、ジョコビッチの主張とは異なる部分があって面白い。
本書を読んで思ったのは、
・ジョコビッチの親父のスルジャンはやばい人
・ジョコビッチは確かに紛争の被害者だけれども、民族全体で見ればむしろ加害者
ということだ。
ジョコビッチの父・スルジャンは元々ナダルやフェデラーに対してひどいコメントをしたりしていてナダルファンの僕としてはあんまり好きじゃなかったのだが、本書を読んで更に嫌いになった。
スルジャンはどうもジョコビッチをトップにするためにその時々で必要な力を持っている人を利用して、用が済んだらさっさと切り捨ててしまう人なようだ。
バウアースさんはスルジャンの立場からしたら仕方のないこととか言っていますが、日本人的な感覚からするとスルジャンのこういう態度はちょっとなぁ・・・とおもってしまう。
また、90年代にはまだ幼く、また歴史に浅い自分は、ベオグラード空爆について、ジョコビッチの著書を読んでセルビア人が一方的な被害者なのだとばかり思っていたのだが、民族的に見るとそうでもなかった。どうもセルビア人が他の民族を虐殺しだしたことが紛争の発端のようである。
ジョコビッチが紛争の被害者であることには変わりないが、ジョコビッチの著書には紛争の発端になったのはセルビアのせいだということが書かれていなかったので、紛争の背景事実を知れたのは大きかった。
ジョコビッチが平和活動にも力を入れている理由がより深く知れた気がする。
そして、ナダルとフェデラーが凄いという話。まぁこの2人が凄いのは当然なのだが、何が凄いって自分はテニスが好きでテニス関連の著書を結構読んできたのだが、この2人の名前はどの本でもかなりの頻度で出てくる。
ジョコビッチも凄いが、テニス界全体のレベルを上げた、という意味ではこの2人にはかなわないだろう。
史上最強はジョコビッチかもしれないが。
とにかく、テニスファンなら読んで後悔しないこと間違いなしな一冊。
ジョコビッチは当分引退しないだろうから自伝をまっててもしょうがないですし(笑)
余談だが、テニスファンとしては、ジョコビッチに限らず、今まで自伝を書いている人も含めてBIG4には引退した後改めてキャリアを振り返って自伝を出してほしいと思う。
★こんな人に読んで欲しい
・ジョコビッチのファン
・ジョコビッチに興味のある人
本書を読めばジョコビッチの試合を見るのが楽しみになることは間違いない。
それくらい、本書にはジョコビッチに関する情報が詰まっている。
★本書を読んだ人にオススメの本
本書を読むような人はすでに読んでいるのかもしれないがやはり『ジョコビッチの生まれ変わる食事』はジョコビッチ側から躍進の理由が書かれていて、本書の記述と対比して読むと面白いだろう。
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